アメリカのアウトドア向けシューズメーカーであるメレル(MERRELL)社の製品、モアブ(MOAB)3を購入して半年経ちましたので、そのレビューをしてみたいと思います。
また、モアブを語る上で論争?になりがちな「モアブは登山靴として使えるか?」に関しても、使ってみた上での個人的な見解を述べていきます。
モアブ(MOAB)とは?
既述の通り、アメリカのアウトドアシューズメーカーであるメレル(MERRELL)からハイキングシューズとして発売されているのがモアブです。2007年に初代モアブが発売され、2023年現在では三代目のモアブ3に進化しています。
モアブは大きく分けて4種類あります。
まず、靴の形で2つに分けられ、ひとつはくるぶしまで履き口があるミッドカットモデル、もうひとつは履き口の高さが普通の靴と同じローカットモデルがあります。また、それぞれに表面が合成革+メッシュとスウェード+メッシュのモデルがあり、好みで選択可能です。
あと、付け加えるとローカットモデルには足の幅が広い人用のワイドモデルがあります。幅広が多い日本人にも安心ですね。
重量も片足で460gと見た目のゴツさに反して、実際に履いてみても思ったよりも軽い印象。
防水機能、グリップ力の高いビブラムソール、つま先ガードなど基本的な機能は共通となっています。
私が購入したローカットモデルだと、おなじみGORE-TEXで防水機能を実現。ビブラムソールも特に雨の日などの濡れた路面に対するグリップが高い印象で、滑りやすい場所でも安心して歩けます。
私の中ではモアブは何故か「海外バックパッカーがよく履いてそうな靴」という勝手なイメージがあります。だって、いかにもそんなデザインじゃないですか?!
モアブの使用感
使っていて感じるのは「歩きやすさ」に重点を置いているシューズなんだな、ということ。
この靴を履くと、踵(かかと)での着地から後ろ足で蹴るまでの歩行工程がとてもスムーズになるんです。これは、アウターソールが見かけの割に柔らかいのと、つま先がソリ上がっているから。
そうすることで、平地では後ろ足で蹴りやすくなり推進力が生まれ、足に余計な負担をかけずに歩きやすくなります。だから、いつまでも歩いていられる感覚になる。
インナーソールも低反発素材で作られているので、フィット感がとても良いです。踵(かかと)がやさしく包まれているような感じで、足への衝撃も軽減されています。
防水など数々の機能を持っているモアブですが、私がこの靴に対して感じる最も良い点は、以上のような靴の構造から来る歩きやすさです。
あと、ビブラムソールが良いですね。
ソールのブロックパターンが縦横に細かく深いので、地面によく食い付きます。未舗装路を歩いていても、土によく食い込むので滑りにくいです。雨の日も強力なグリップを発生させるので、濡れた滑りやすい路面でも安心して歩けます。
一つ実例を挙げると、今年の夏にモアブを履いて西表島の山中を探検したのですが、あのジャングルの中を全く問題なく歩くことが出来ました。
マリユドゥの滝までの密林の未舗装路や、濡れている川辺の岩場や滝つぼなど、いろいろ歩きましたが、滑ったり転倒することもなく、疲労感も少ない快適なハイキングが出来ました。素晴らしい!
登山靴になるか問題
メレルに限らずハイキングシューズは登山靴として使えるか?に関してはよく議論されますが、モアブは登山靴にはならないと思っています。
重要なのがここで言う「登山靴」の定義です。人によって解釈はまちまちですし、細かく言い出すとキリが無いので、ここでは以下の定義で使わせていただきます。あくまで一般論として語るので、例外はあることをご容赦ください。
ここでの登山靴の定義:
「日本アルプスや南八ヶ岳を代表とする荷物を背負いながら長時間の歩行が必要で、岩稜帯やクサリ場、急な斜面等がある標高2000m以上の山を登るのに適した靴」
では、なぜモアブが登山靴にならないかというと2点理由があります。
フラットフッティングに適しているか?
上の方で「モアブは歩きやすい靴」と説明しましたが、その歩きやすい工夫が仇となって登山靴には不向きになっています。
基本的に傾斜面を歩く山中では、我々がふだんやっているように後ろ足で蹴って推進していくような足に対して負荷の大きい歩き方はしません。フラットフッティングと言って、抜き足差し足でペタペタと靴底を接地させ、足の筋肉の負荷を最低限にしながらグリップを足裏全面に効かせつつ歩行するのが基本です。
残念ながらモアブはフラットフッティング向きとは言えません。登山靴よりもつま先が大きくそり上がっていることから、つま先に荷重を移動させたくなるので、どうしても蹴って推進力を得る歩き方になってしまいます。
また、同様の理由から、地面に接地しないつま先分だけ接地面積が小さくなるので、本来靴が持つグリップ力を最大限生かせません。これでは下り坂をつま先で踏ん張れないですし、足下のフリクションが最大限必要になる下山時に致命的です。
もう一つ言うと、アウターソールが柔らかいので重い荷物を背負った山行だと、ソールが硬い登山靴よりも疲労度が大きくなるでしょう。靴底が柔らかいと、足の筋肉で体を支える必要がでてくるので疲労が増すのです。
岩稜帯に適しているか?
岩稜帯では岩の小さな張り出し(スタンス)を見つけ、そこに足の一部を乗せて三点支持を取ったり、クサリを頼りにしながらバランスを崩さないよう通過することが多くなります。
これも、モアブが登山靴よりもつま先が大きくそり上がっているのとアウターソールが柔らかい弊害なのですが、つま先での立ち込み(つま先でスタンスに足をかけて体勢を維持する)がやりにくいのです。
登山靴だとアウターソールが硬く、つま先から踵までがおおよそ直線的なので、立ち込みをしても靴自身の剛性でスタンスに乗っている形をキープしやすくしてくれるのです。よって、足への負担が大きく軽減されます。
モアブだと岩稜帯を突破できないとまでは言いませんが、疲労度が増したり、ミスを誘発させる危険性は登山靴よりも大きくなるでしょう。
結論
モアブを使ってみて、そのデザインと機能から一番生きるシーンは「ハイキングなど軽いアウトドア活動を伴う旅行」ではないかと思います。野山にも街にも行くけど、登山靴だと街中ではオーバーすぎる、なんて時にぴったり。
もちろん、ふだんの散歩や街歩きなどにも最適だと思います。平地での歩きやすさや疲労感の少なさは、特筆に値するかと。
アウトドアに関しては、標高2000m以下のそんなに険しくない、日帰りできるような低山ならモアブで行けると思います。関東周辺なら、尾瀬の湿原歩きや筑波山、高尾山など。奥多摩や丹沢、奥秩父だとコースにもよりますが、岩場や急斜面の下りがある所ではオススメ出来ないかな。
私は普通に買い物や散歩など、街中でもそれなりの距離を歩く場合にはモアブを履いていることが多いです。使う場所を間違えなければ、このデザインと歩きやすさ、天候問わず使える機能性は正義ですよね。